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温泉地再生

日本人の9割が温泉好きなのに、温泉地が低迷しているのはなぜか。

財団法人日本交通公社の研究員として、著者が携わってきた各種旅行者動向調査から見て取れる、温泉や温泉旅行に対する消費者の支持の高さと、なのに疲弊する温泉地の実態というギャップ。この本は、著者がそのギャップを埋めようと、もがいた軌跡でもある。

おそらく著者のもがきは、その疑問に部外者として答えを出そうとしているのではなく、当事者である旅行者の1人として、また、温泉地や旅館経営者にシンパシーを抱いてしまった取材者、研究者だからこそのものだろう。

研究員を「分析オタク」くらいにしか思っていなかったころ、著者に研究員の喜びについて質問したことがある。

少し考えた後、著者は「多くの人に、いい旅をたくさんしてほしいと思っていますし、少しでもその役に立てるなら嬉しいですね」。旅行者と温泉地の役に立ちたい。この本が書かれた動機もそこにあるんだろうと思っている。

ギャップを埋めるための手法として、著者は第1章で全国の11の温泉地が元気を出すことから活気が生まれてくるまでの事例を紹介している。そして、第2章では温泉地のリーダー7人に温泉地への思いや夢を聞き、活気ある温泉地やリーダーの言葉、姿勢からギャップを埋めるための共通項をつかみ取ろうとする。

最後に、「温泉地の新しい社会的意義を求めて」とした第3章で、それら共通項を読者に提示している。

旅行ニーズの多様化への対応といった使い勝手のいい説明ではなく、真正面から旅行者と温泉地との溝を埋めようとする3章には、この本の最大のオリジナリティと、映画「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」のラスト30分のような疾走感があった。

温泉は泊まるものという共通認識が崩れた後の、それでも温泉に泊まる動機はどこにあるか、温泉に若々しさや精神的な回復を求める層の台頭、地域がまとまらないから進まないという欺瞞、正解ではなく信念から始まる取り組み、課題は市場にではなく温泉地の中にあるという確信。

リーダーたちの言葉を借りるだけでなく、著者がもがき考え伝えたい、温泉地再生への思いが語られている。温泉地再生は、旅行者、温泉地、社会の3者にとって取り組むべき価値があるし、絶対に楽しい。読んで思った。

(あ)

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