SLで夜を駆ける 大井川鐡道・大井川本線
静岡県中部の大井川沿いを走る「大井川鐡道」。今年で31年目を迎えるSLの動態保存運転で知られますが、6年前から年間でたった1日だけSLの特別運行を行っています。
1年で1日だけの夜汽車
大井川鐡道・大井川本線
その名は「夜汽車SL急行かわね路号―ナイトトレイン」。通常は金谷―千頭駅間を日中に運行しているSL急行列車が、SLファンの要望で1日だけ片道のみの夜汽車として運転されるものです。例年大好評で、事前にツアー参加の申し込みが必須。今年も大勢の人が参加していました。
2月24日、一度は乗ってみたかった夜汽車を楽しみに今回、3歳の息子と参加。まずは新金谷駅から千頭駅へ、ツアー参加者向けに特別運用された元近鉄の電車で向かいます。この電車は吊り掛け車という駆動方式で、動くたびに独特の音を奏でます。車窓の渓谷美とあいまって、これだけでもう満足、満足。
でも主役登場はこれからです。暗闇に包まれた千頭駅構内のターンテーブルに昭和15年生まれのC11-190号機が入ってきました。旧国鉄時代は天皇のお召し列車を牽引したこともある特別機で、ステンレスに縁取られた車体がライトに照らし出されると歓声とともにシャッターが一斉に切られます。ドレン切りと言われる動輪付近から噴出する蒸気が立ち上りムードは最高潮!
4両編成の客車も昭和14―17年に製造されたもので、最後尾のオハフ33-215は白熱灯の室内灯に、仕切りドアには「三等」の表記も残っています。
愛知県から参加した伊藤さんは「夜汽車の素晴らしさは、乗った人にしかわかりませんよね」。神奈川県の落合さん親子は「昭和22年から25年ごろ、SLにひかれたこの客車で通勤していました。汽笛の音がホント懐かしいです」。息子さんも「昭和50年ごろは、この客車に揺られて旅をよくしました。さすがにSLではなかったですが」。たくさんの思いを乗せて走る大井川沿いを走る夜汽車―。
通常の列車では味わえない忘れられない旅になりました。大井川鐡道の皆さま、ありがとうございました。撮影で冷えた身体に豚汁は最高でした。我が息子にとっては、帰宅した翌日に買った「C12のプラレール」で遊ぶたびに思い出す...はずです。
鉄道文化の"動態保存館"
SL動態運転のきっかけは、沿線の過疎化が進み鉄道存続が危ぶまれた70年代前半。観光鉄道として生き残りをかけようと当時、全国で姿を消しつつあったSLの運転を決めました。
1976年、C11-227号機と旧型客車3両で運転を開始。今ではSL列車の年間運行本数は日本一です。今年の3月24日―4月8日の桜の開花シーズンには、東京と九州を結ぶ往年の寝台特急「さくら」号のヘッドマークを付けたSLが走行しました。
SLの動態運転のほかにも、94年から近鉄や南海、京阪など関西大手私鉄で活躍した特急車を当時の塗装のまま各駅停車として運転。大井川鐡道は、ファンならずとも多くの人に郷愁を抱かせる鉄道文化の動態保存館なのです。
【路線】 SL動態運転を行う金谷駅―千頭駅間の39・5キロメートルが大井川本線。千頭から井川駅まで25・5キロの南アルプスアプトライン・井川線、90年の長島ダム建設により路線変更したため設けられた日本唯一のアプト式を採用している区間があります。
あらしん...鉄道をこよなく愛するヲタク。鉄ちゃん。一部私鉄を除き、全国の路線を乗車。鉄道好きが高じて車内販売員歴も。現在一人息子を立派にしよう?と鉄道のイベントに連れ出している。